2021年ITLSインターナショナルカンファレンス(国際会議)が21米国フロリダ州タンパで開催されます。









「ITLS国際会議について」
平成27年11月10日より13日の4日間、米国ネバダ州ラスベガスにおいてITLS国際会議が開催された。
ITLS(International Trauma Life Support)は教育プログラムを通じて外傷傷病者の救命、障害の軽減を目的として活動する国際的NPO組織であるが、米国において深刻化している若年層の交通事故等による外傷死亡患者の増加を背景に、救急隊員に対する外傷処置トレーニングの必要性が高まったことから、1982年にJohn E. Campbell医師がアメリカ救急医学会アラバマ支部の地方プロジェクトとして医師向けのATLS(Advanced Trauma Life Support)を元に、最前線である救急現場で活動する救急隊員向けに病院前外傷救護の教育プログラムとしてスタートさせたことが発端となり、1985年以来、全世界でITLSコースを開催している。
実は当初ITLSはBTLS(Basic Trauma Life Support)と称していたが、2005年にITLSと名称が変更された。名称変更の理由は、病院前外傷救護という狭義の内容ではなく、病院外で起こりうる事象、すなわち災害を含め、院外で行う外傷救急医療という広義の目的が課せられてきた社会的背景からである。その背景を勘案して、ITLSのサブタイトルはImproving trauma life support(外傷患者救命の更なる向上)と記述されている。よって現在の受講対象は病院前医療に関係する全職種であり、パラメディックをはじめとするファーストレスポンダーや救急医療に関る医師や看護師である。
現時点で、アメリカ、カナダ、フランス、ブラジル、南アフリカ、メキシコ、イタリア、日本、中国など世界の35カ国、90支部で33万人以上のプロバイダーが養成されており、病院前外傷救護の世界基準となっている。また、ITLSはアメリカ救急医学会(ACEP)に公認された唯一の病院前外傷救護の教育プログラムであり、アメリカ救急隊員登録委員会によりすべてのレベルの救急隊員が生涯教育の一環として受講を義務つけられている。しかし米国で発展してきたITLSであはるが、グローバルスタンダードとしてのITLSの指針を世界各国に強要するものではない。基本理念こそ米国で考案された教育プログラムで普遍であるが、その内容は各国の意見、データを取り入れ、多様性と柔軟性に富んだ内容になってきている。さらにその表現方法(コースプログラムや教育資材)も各国の事情に合わせてある程度のモデファイが許容されるのである。現にJPTECはこのITLS(当時はBTLS)やPHTLS(Pre Hospital Trauma Life Support)等を参考に企画された。
ITLSの教育コースには下記の種類がある。ITLS ベーシックプロバイダーコース ITLS日本支部としてはコースを行っていないが、現在は日本では、JPTECコースを同等の内容として希望があれば公認し、修了証を発行している。
ITLS アドバンスプロバイダーコース:受講対象は救急救命士、医師、看護師などで、ベーシックで学んだ知識をより深く理解する内容となっており、なぜ行うのか、いつ行うのべきかなど、医療を行うものとして必要な「考える」を経験するコースとなる。
ITLS 小児コース:小児の死亡原因として最も大きなウェイトを占める不慮の事故、すなわち外傷に焦点を合わせた世界で唯一の小児の病院前外傷救護に特化した教育プログラムである。
ITLS アクセスコース:交通事故で閉鎖空間に閉じ込められた傷病者をいかに効率よく救出すべきか、またその判断はどのようにすべきかに特化したコース。実際の車両を用いて、これらを学ぶコースとなっている。
ITLSミリタリーコース:治安維持活動下の特別な環境で受傷する兵士や住民の救護を主眼としたコース。 観察手技などは平時と同じ手順で行うが、受傷機転や受傷形態、安全確保という面で大きく異なるため他のコースと一線を画す。現在は日本では開催していないが米国ジェネラルガード(国軍)やカナダ軍が正式に採用している。
さて、話は国際会議に戻るが、日進月歩の医療においては、昨日まではベストであったものが今日のベストな方法ではなくなってしまうこともある。
ITLSは常に最新の知識に基づき、傷病者にとって最良の病院前救護が提供できるように知識や技術をアップデートしている。そのために各国の代表が集まり、国際会議の場を使って情報交換や研究発表を行うことにより「傷病者にとって今日の最善の医療」提供すべく第8回目のテキストの改訂が行われ、今回の改定の主だった内容は、気道管理手技や循環管理、特に止血に関しての変更、また、SMR(Spinal Motion Restriction:脊椎運動制限)に関してはバックボード固定の不利益に関するデータの蓄積から運用の見直しが行われた。
このような改訂内容はITLSのみならずACEP(米国救急医学会)やNAEMSP(米国救急医協会)はもちろん、病院前救護全般のガイドラインというべき米国トリアージガイドラインにも反映されている。もちろん国際会議では、専門的なプレゼンテーション、パネルディスカッション、ポスターセッションなどが行われるが、さらに救急技術を競い合うコンペティションと呼ばれるシナリオベースの競技大会も併設される。
今年は、米国はもとより、カナダ、スロベニアなど国際色豊かなチームが競い合った。ただし国際会議(学術集会)といっても決して堅苦しいものではない。ほぼ全ての参加者は会場である同じホテル、または近隣のホテルに宿泊することになるが、そこに同じ志のものが集まると自然に連帯感が生まれ、友となる。いわゆる「同じ釜の飯」的な繋がりである。このつながりをITLSでは「ITLS Family」と呼んでいる。つまり家族として繋がるのである。現に、現地の救急隊と打ち解け、ER、外傷センターの見学、救急ヘリコプターや救急車の同乗など実に気楽に参加させてくれる。
ITLSの学術集会としての国際会議は年に一度、主に北米の都市で開催される。来年は10月26日~29日にかけて米国テキサス州のサンアントニオにおいて、併設コースと共にITLS国際会議が開催される。ぜひ機会があれば、皆さんも参加されたい。 (支部MD 鶴岡 信)

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